今から25年前、平成8年の楊名時師家のご著書「楊名時の太極拳健康長寿法」より
参考にしてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『九十歳の先生』
「今が最高です。年を取ってこんなにも豊かで愉しい毎日を暮らせるなんて。これも太極拳のおかげです」
とおっしゃるのは、今年九十歳を迎えた今野つよさんです。
今野さんは、千葉にお住まいで、千葉県支部の副支部長をされている市川寿子さんのお弟子さんです。
今野さんは市川さんの23ある教室の一つで稽古をされているだけでなく、ご自分の教室を持って指導もされているのです。
市川さんが今野さんの活躍ぶりについて、こんな文章を寄せてくださいました。
「九十歳の今野さんは文字通り、明治生まれの気骨ある女性です。
ちょうど十年前の八十歳のとき、私の教室に入門されました。
入門以来教室を休んだのは親戚の法事などがあった時だけで、千葉市に大雪の日も教室に出席されて私を驚かせました。
転んで怪我でもされたら大変だから、雨の日や雪の日はお休みくださいと私からお願いしたことがありました。
八十七歳の時、準師範の審査を受けたいと希望されましたが、高齢であることと無理をされてお体に負担がかるのではと、私としては逡巡するものがありました。
その時今野さんが私の心の内を読まれたのか、
“先生、私には来年はありません”
と、おっしゃったのです。
この言葉に私は返事に窮しました。
“それでは無理のないように不老拳をお願いしましょう”
“いいえ、最後までやらせてください”
審査の当日、懸命に足をあげようと努力する今野さんの姿に、感激の涙を拭う仲間たちもいました。
今野さんの頑張りはその後も続きました。
八十八歳の秋、「教室を開いてもよろしいでしょうか」と申し出られたのです。
私はこの時も、一瞬返事に困りました。
でも今野さんの真剣な表情から決意の固いことを感じて「それでは貴方の近所の指導者に呼びかけて、手伝っていただきながら開いたらいかがでしょう」
「ところで教室は確保しましたか」
とお聞きすると、すでに手配してあるとのこと。
八十八歳の今野さんの勇気ある行動に感激しました。
そして今野さんの教室はスタートしました。
今野さんの近隣の指導者にお手伝いして欲しいと私も声をかけ、今野さんも熱心に頼んだ結果3名の方が応援することになりました。
今野さんの太極拳は、教えるという立場に立っていっそう深くなったようで、そのひたむきな熱意は、私たちにも勇氣を与えてくれます。
十五名だった生徒さんも今はニ十名になり、九十歳の先生は仲間の輪の中でいっそう輝いています。
後に、師範審査を受け師範のお免状を戴くことになり、楊名時先生から直接にお免状をいただけると、私からの電話を受けた今野さんは、感激のあまり電話の前から立てなくなりましたということを耳にしました。
人間はいくつになっても、もうこれで終わりということはありません。
生きる限り希望をつないで夢いっぱいの毎日でありたいものです。
“歓渡晩年”(よろこびをもって晩年を過ごす)を目指して、今日も楽しく楊名時太極拳を楽しみましょう。